村上春樹の小説『ノルウェイの森』について、なぜあんなにも性描写や自殺の描写があるのか…受け入れられないからこの物語は好きではない、という投稿をSNS等で時々見かけます。 確かにこの作品には、自殺や死、そして性描写が繰り返し登場します。しかし、それらは物語の中心テーマである「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」という考え方から描かれていることが根底にあると私は考えています。
大ヒット漫画「鬼滅の刃」の主人公の衣装の柄で話題になった“市松模様”が、隣り合う2色の配列を繰り返しながら一つの模様を形成しているように、作品では「性」と「死」が交互に描かれ、個々の表現に注視しすぎずに俯瞰して物語を眺めたときに、生きることの喜びや悲しみ、複雑さやどうしようもなさ、それでも生きることの意義が表現されているように思います。

なぜ「生」ではなく「性」が強調されるのか。それは、自殺が「積極的に死を選ぶ行為」であるのに対し、性は「積極的に生を生み出す行為」だからではないかと私は感じました。 性はしばしば「いやらしい」「汚らわしい」と批判されがちですが、私たちがこの世に生きている(生きた)のは、ほぼ例外なく「性」の結果です(望むと望まざるとに関わらず)。
何かと賛否両論で話題になるこの物語ですが、かつて、失恋で苦しんでいた大学の友人にこの本を貸したところ、「傷が癒えた」と喜ばれました。再読してみた時に、おそらくこの友人は、ある種の「生きることを引き受ける力、受け入れる力」を得たのではないのかと思っています。あらためて、この物語には誰かの心を救う力があるのだと思っています。
ノルウェイの森の表紙は上下巻で赤と緑に分かれていますが、この2色を混ぜると”黒”になる、という話題を友人と話していたのを思い出しました。赤と緑はそれぞれ何を象徴し、混ぜると現れる黒は何を表すのか。感じ方や捉え方は人によっても違うかもしれません。
どうか、少しでもご興味をもたれた方は、読まず嫌いをせずに一度読んでみて頂ければ、何か心に残る表現に出会えると思います。


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