小野不由美さん。
何なのだろう。
この特に怖がらせるつもりというものを全く感じさせない、淡々とした文章。
まるで今日一日の出来事を淡々とまとめた日記のような、あるいは目玉焼きの作り方を説明するかのような。
そんな文章から紡ぎ出されているのが、極上のホラー小説なのだ。
個人の好みですが、もともとホラーというジャンルはあまり好きではない。というのも、お金を払ってわざわざ怖い思いをしたいとは、あまり思わない。
けれど、小野不由美さんが描き出す怖さの中には、なぜか引き込まれるものがある。手にとって読んでしまいたくなる引力がある。
それは何なのだろう。
小野さんの小説を3作ほど読んでいて感じるのは、読むともちろん怖いは怖いのだが、その向こう側に、「でも、もしかしたら世界ってこんな風にできているのかもしれないな…」と考えさせられるものがあるからではないだろうか。
①残穢
よくないものは、土地や人を介して感染する。ウイルスや細菌といった科学的に説明できるものだけではなく、無念の思いや恨みといったものも。
ただし、そういったよくない思いが感染するということは、きっと愛情や思いやりといった良いものも、土地や人を介して伝染していくものだと思いたい。
②十二国記
学校や職場。もしかしたら家庭。なんとなくそんな社会生活に居心地の悪さを感じる時…人はここではない異世界に思いを馳せる。そして、本人が意図しないタイミングで、異世界と繋がったり、迷い込んだりしてしまうこともある。ここでいう異世界とは、自分の意識の深層領域であったり、あるいは異国であったり、人生を一変させるような読書体験であったり。十二国記ではメタフォリカルに描かれているが、おそらくその人にとって何が「異世界」にあたるのかは違う。ただ確かに、人によってどこかに、存在する異世界とのふれあいが、時に危険も伴うかもしれないが、人生を豊かにする結果を招く場合もある。
③鬼談百景
人生でなるべく触れるべきではないものも、「異世界」も、何も考えずに生きている日常の、実はほんのわずか脇道にそれたり、数十センチ目線をずらしたり、暗がりに目を向けてみたりしたところに存在する…かもしれない。日常生活で、そういった存在との出会い方がショートショート形式で百通り紹介されています。
小野不由美さんが描く恐怖の向こう側には、何かしら、人生の真実が書いてある。
なんとなくですが、そう感じるからこそ、小野さんの描くホラーやファンタジーに心惹かれていく方が多いのかもしれません。
(この文章を書き終わった途端、台所の何かが、パコッ、と音を立てて床に落ちました…)
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