読書の師匠である祖父からの課題本「項羽と劉邦」。
古代中国。殷→周→秦→漢と王朝が移り変わっていった流れの中の、秦→漢の部分にスポットライトが当てられた物語。
秦といえば、漫画キングダム。キングダムは、秦が中国統一を果たすまでの過程が描かれていますが、その「次」の時代が描かれています。
ちなみに、キングダムに登場する大らかな巨人、人気キャラでもある蒙豪将軍は、戦争中の夜、平民の服でうろうろする癖があります。なんと、それと全く同じ癖をもった別人物が小説の中に登場します!
冒頭から、秦の始皇帝が登場。キングダムとは違い、滅びゆく秦帝国の皇帝として、の描かれ方です。
秦が滅んだ後、漢帝国をつくったのが、劉邦という人物。この人、何だか坂本龍馬に似てます。
「もし劉邦の運に調子がつけば、かれ自身、それに乗り、竜の申し子と言われているとおりに天へ駆け登るということも可能かもしれない。」
小説の中のこの文章を読んで、「竜馬がゆく」の龍馬にも通じるものを感じました。
この小説で学べることはたくさんありますが、私にとって一番大きな収穫は、ヒトが「人望」を得る瞬間・失う瞬間。その描かれ方でした。
「人望とは、人にご飯を食べさせてあげること。」
これができない人は、遅かれ早かれ滅びの道を辿る。そんなエピソードを読んで、会社とか、現代の色々なことにも通じるな…。と思いました。「ご飯」とは、必ずしも食べものという意味だけではなく。
「地元の古くからの友達は、大事にしよう。邪険に扱うと、それが原因で滅ぶこともある。」
ある武将が、有名になってから、訪ねてきた旧友を斬ってしまうというエピソードが。それをきっかけに求心力を失っていき…そのわずか1ページ後に、部下の反乱に遭って自分も命を落としたというお話が。会う機会は減っても、なるべく昔からの友達は大事にしたいなと感じました。
「トッププレイヤーではなく、むしろ『この人を助けたい』と思わせるスキがあること」
秦が滅んだ後の次の時代を作るのは、項羽か劉邦か。この2人のライバルは、対照的な描かれ方をします。武将として最強の項羽と、大して強くもなく、頭が良いわけでもなく、でもなぜか人望は人一倍ある劉邦。結局、劉邦がその争いに勝ち、次の時代を作っていくことになります。最強の武将である項羽に勝てた要因は、劉邦よりも優秀な人たちが、「劉邦は何だか頼りがないが、なぜかこの人を助けたい。」と命がけで力を貸してくれたことでした。
途中、ライバルである項羽に完全に包囲され、99.9%の確率で命を奪われそうな大ピンチを迎えますが、戦いではなく宴(飲み会)で乗り越えちゃいます。といっても、本人が何かする訳ではなく、劉邦の部下が、裏で敵側の幹部を動かして、窮地を切り抜けさせてもらう。才能はなく、ただ不思議な人望をもつ主人公としての劉邦の描かれ方で、象徴的な場面でした。
劉邦は人格者というよりは、大酒飲みで女好きで、でもどこか憎めない田舎の親分というような描かれ方です。でも、人に出番をあげられることや、食べさせて上げることを大事にしている。そして、スキだらけの愛嬌。それらの要素の絶妙なバランスが、彼に人望をまとわせている。また、人を惹きつける不思議な音程の声を持っているという描写も。(これは鬼滅の刃で出てくる「1/fゆらぎ」の声に似てるな…と感じました。)
「人望」。数値では表せない。目には見えない。でも、確かに存在する力。それと共に描かれているのは「義」という概念のはじまりについてです。
後の時代で日本の武士の美学になっていく「義」という概念は、この項羽と劉邦の時代から生まれたというエピソードも描かれています。そのルーツは、「食」…つまり「命」と直結しているものをくれる人には、「命がけ」でその恩を返そうという考え方。その恩返しがたとえ自分の不利益になろうとも、それをすることが「義」であると。「義」という字は、「我を美しくする」という字源があるそうです。つまり、そうすることが「美学」であると。
登場人物の、瞬間瞬間に全力で命を燃やす生き様に、エネルギーをもらえます!
「この乱世にあっては何がおこるかもしれず、人間の予測など不可能で、すべては運命ではあるまいか。」
この小説で出会った好きな文のひとつ。ここでの運命という言葉は、偶然に起きたことが響きあって運命になっていくという意味に感じています。偶然の積み重ねが運命。そういった意味では、何でもない今日も運命の日と言えるのではないか。そんなことも感じました。
祖父からの課題本。感謝とともに。何度でも読みます。
コメント