折しも、ロシアとウクライナが交戦中に、2022年の本屋大賞を獲得した本作。旧ソ連の軍にスナイパーとして入隊した少女を描いた作品。
戦争というものを考える上で、今、まさに読むべき本だと感じたのは自分だけではないと思います。そんなきっかけで、この本を手に取ることになりました。
著者の逢坂冬馬さんは、本作がデビュー作というのが驚きです。(ちなみに明治学院大学卒。知り合いが何人も卒業生でいるため、不思議な親近感が湧きました)
第11回アガサ・クリスティ賞も受賞しています。
主人公セラフィマが穏やかに暮らしていた、村の人々が、敵対国の武装勢力によっていとも簡単に蹂躙されてしまうところから、物語が動き出します。
物語の中で描かれる、戦争による理不尽な暴力が、人類史において数え切れないほど行われてきた。そして今まさに行われている。おそらくは哀しいことに、これからも繰り返されていくのでしょう…。
突如、「必死に生きるか。必死に死ぬか」の問いを突きつけられた主人公は、憎悪を抱えてでも【生きる】ことを選択します。限りなくシリアスな展開なのに、読みやすい文章で淡々とした語り口で紡がれている物語です。
「あなたの戦争が終わるのは、いつですか。」
人物同士で投げかけられる質問。
それだけ戦争の実体験は当人の人生に影響を与え続け、頭の中に居座り続けるということでしょうか。それを知らない世代でも、考える意義があると思いました。
戦争は、すべてを奪ってゆく。遠い先祖から繋がれてきた命のバトン。受け継がれてきた家族の愛情。友情。子どもたち。ひとの生き様・死に様も…。改めて考えさせられました。
砲弾が当たりそうな音。殺気の肌感触。言わば「視覚に頼らない空間認知能力」を、訓練で、実戦で、新米の少女スナイパーたちは身につけていきます。その感覚は、おそらく永く文明に甘やかされ、ヒトが失ってきたものではないでしょうか。「身につける」というよりは「取り戻す」が合っているかもしれません。
激戦を駆け抜ける主人公。問われ続ける一瞬一瞬の判断。緊張感が伝わってきます。
戦いの果てに、セラフィマは、「敵とは誰なのか?(何のために自分は戦うのか?)」「誰を愛するのか?」の選択をすることになります。彼女の選択と、その先に見た景色を、読者は見届けることになります。
印象的だったのは、登場人物の目と目が合う、一瞬の場面。その一瞬にこの2人は心を通わせたんだろうな、と読者に噛み締めさせる一瞬が書かれていました。今回2つ、自分は見つけられましたが、また読んで探してみたいと思います。
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