「ちょっと密教の真髄を盗んでくるわ」と、真言宗の創始者・空海が、通常は20年かかる遣唐使の留学生活をたったの1年で終えて帰国できた(史実)。 しかも、無理矢理にでもこっそりとでもなく、皇帝はじめ周囲を納得させて堂々と。
一体、どうやってそんなことができたのか。
ひとつには、若い空海が言葉の魔法使いとして描かれています。唐の国で出会った魅力的なキャラクター。楊貴妃や阿倍仲麻呂も絡んだ一大事件を通して、空海が成長していく物語です。
唐の国で出会うさまざまな怪異。その裏には、人の心の欲望や、無念の想いが影響している。
そんな怪異を、言葉の力を魔法のように使って、解決していく空海。
しかしその解決にあたっては、決して相手を「やっつける」「こらしめる」という感じではなく、相手のその気持ちにすっと寄り添い、慰めてあげるような解決のしかたでした。
作者の夢枕さん、執筆にあたってかなり空海の実際に残した資料を読み込んだりされたそうで、本人の実際の思想や真言宗の考え方を参考にされたようです。
人の心を動かす言葉って、魔法だなと思うと共に、人の心を言葉で動かすためには、対立してバチバチやるのではなく、どこか相手の心に共感して寄り添うことが最終的に効いてくるのかなと思いました。
この物語が、少し前に転職の決断をする上で、自分の背中を押してくれました。
というのも、空海が20年はかかるという唐の留学をたったの1年で終えて、しかも周囲との衝突もなく日本に帰れるようにしたという物語が、転職するにあたりなるべく周囲と衝突したくない(傷つけたり傷ついたりしたくない)と思って尻込みしていた自分に、「そうか、言葉の力をうまく使えば、うまくできるかもしれない」と思わせてくれたというのが大きいです。
クラフトビールをちびちび飲みながら、この物語を読み、転職の決断を固めていったあの日々は、自分にとってかなり重要で思い入れ深い日々でした…。
読む人によって、掴み取るものは違うと思いますが、ぜひ読んで後悔はしない物語だと思います。
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